社長の離職

彼氏の会社の社長と出会ったのは、ちょうど今から5年前のことです。当時、クラスメートの一人で、何度かプレゼンのパートナーになって仲良くなりつつあった彼氏に、「よかったら、僕の仲間のミーティングを見に来てみる?」と誘われて行ったNelsonのアパートの一室で、初めて社長と会いました。

当時、私はカナダに来て4ヶ月しか経ってなく、社長の英語が全て理解できなかったのですが、初対面からとてもフレンドリーで、冷蔵庫から冷えたビールを出してくれ、ベランダで一緒にビール飲みながらダウンタウンの街を眺めていた時、社長は熱く自分の夢を語ってくれました。

それから毎週月曜のミーティングに私も参加することとなりました。彼らにはオリジナルのゲームシナリオがあり、それを元にデモを作っていました。当時のメンバーは、12~14人。人の出入りが激しく、途中で居なくなるメンバーも多かったけど、コアに活動している人は常に同じでした。半年ほど経った頃、主要メンバーの3人(そのうちの一人が社長)で会社を設立、West Penderにオフィスを借り、本格的に業務を始めました。

ところが、「これから」というところで、共同経営者の3人がケンカして内部分裂。その後すぐ、社長は新しい会社を設立しました。彼氏は社長に誘われ、新しい会社に移りました。

その会社というのが、今の会社です。リストラやリーマンショックが遠因でプロジェクトがキャンセルになるなど、これまで何度も会社経営の危機を経験しており、特にプロジェクトキャンセルの影響が大きく(入ってくるはずのお金が入ってこず)、ここ数ヶ月は経済的にもきつい状態でした。それでも、キャンセルになったゲームと平行して作っていたデモがほぼ出来上がり、それをパブリッシャーに売り込んで会社を維持させていこうと頑張ってきました。

・・・ところが、

社長はそうは思ってなかったようです。皆に隠れて自分はずっと転職先を探していたようで、先週の金曜、他のゲーム製作会社に採用されたそうです。今日、社長は少し遅めに出社し、会社の共同経営者と彼氏を呼んで、他の会社に採用が決まったことを話し、「今月いっぱいで僕は会社を辞めるから」と、言ったそうです。

多分ここ数ヶ月間、社長はデモをパブリッシャーに売り込むよりも、自分の就職活動を優先させていました。社員たちは、パブリッシャーからの連絡が途絶えてきたので「おかしいな?」とは思いつつ、それでも皆、社長がデモを売り込んでいると信じて、それぞれ自分の仕事に専念していました。

だからこそ、皆のショックは大きく、特に彼氏は、7年前に学校で知り合い、それから何があってもずっと社長と一緒にやってきたので、さらにショックを受けているようでした。夕食を終えた後、弟を一人リビングに残し、私たちはベッドルームに移ってこの話をしたのですが、ベッドに仰向けに転がった彼氏の目には、うっすら涙が浮かんでました。

社長は、自分の夢を語るのが好きな人でした。昔、Nelsonのアパート時代に「いつか僕の(オリジナルゲームシナリオの)プロジェクトを成功させて、会社を有名にし、そしてアメリカの会社に買収されて大金を手にし、早めにリタイアして悠々自適な生活をするんだ」と言っていました。しかし、数年後には、現実の厳しさを知り、“(オリジナルゲームシナリオの)プロジェクト”はいつの間にか話をすることもなくなり、去年のリーマンショックのあおりを受けてからは、金策に走り回って苦労していたようです。

彼はもうチームを外れましたが、残ったメンバーは今後も頑張っていかなくてはいけません。ほぼ出来上がっているデモゲームをリリースできるその時まで。諦めたらそこで会社は終わりになるのだから。

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