高村光太郎「智恵子抄」

高村光太郎が一般的に、彫刻家として有名なのか詩人として有名なのかは分からないけど、私は完全に光太郎を「愛を詠う詩人」として認識しています。

タイトルにもなっている「智恵子」は、光太郎の妻です。絵画を通して知り合った光太郎と智恵子は恋愛期間を経て幸せな結婚をしますが、後に智恵子は精神を病み、自殺未遂を起こし、最後は光太郎を残して病気でこの世を去ります。

妻が狂ってもなお光太郎は智恵子を愛し、自分が狂ってもなお智恵子は光太郎を慕います。そんな状況で光太郎が、時には絶望を、時には変わらぬ愛を詠ったのがこの詩集です。

人を深く愛するということは、なんて辛いことなんだ、と思いました。でも、そこまで愛せる人と出会えて、光太郎は幸せだったんだろうなぁ、とも思いました。

「亡き人に」

雀はあなたのやうに夜明けにおきて窓を叩く
枕頭のグロキシニヤはあなたのやうに黙つて咲く

朝風は人のやうに私の五体をめざまし
あなたの香りは午前五時の寝部屋に涼しい

私は白いシイツをはねて腕をのばし
夏の朝日にあなたのほほゑみを迎へる

今日が何であるのかをあなたはささやく
権威あるもののやうにあなたは立つ

私はあなたの子供となり
あなたは私のうら若い母となる

あなたはまだゐる其処にゐる
あなたは万物となつて私に満ちる

私はあなたの愛に値しないと思ふけれど
あなたの愛は一切を無視して私をつつむ

CONVERSATION

0 comments:

Post a Comment

Back
to top