2013年に製作された「Documented」という映画を観ました。
この映画は、過去にピューリッツァー賞を受賞したジャーナリスト、ホセ・アントニオ・ヴァルガス(JOSE ANTONIO VARGAS)氏の自伝的なドキュメンタリー映画です。
彼は12歳の時、当時、アメリカの永住権を持ってサンフランシスコに住んでいた祖父母が密入国ブローカーを雇い、そのブローカーによってフィリピンからアメリカに連れてこられました。
長い間、自分が不法移民とは全く知らず、正当なビザ、もしくは市民権を持ってアメリカに住んでいるものと思っていました。しかし、16歳になったある日、運転免許を取得するために運転免許センターに行き、そこでIDとしてグリーンカードを提出したところ、受付のオフィサーに「あなたのグリーンカードは偽造品ね」と指摘され、初めて自分の滞在ステイタスに疑問を持つこととなりました。同居していた祖父に、偽造グリーンカードの真偽について尋ねたところ、彼のグリーンカードやSocial Security Number(日本で言う“マイナンバー”)などの書類はすべて、祖父が他人から買った偽造品であり、彼は正当なビザも市民権も持たない、不法移民だということを告げられました。
その事実にショックを受けつつ、それでもなお、人一倍勉学に励み、彼はジャーナリストになりました。2008年にはピューリッツァー賞を受賞し、順風満帆にキャリアを築いていきました。
しかし、自分が不法移民であることが知られないようにするため、苦労していくこととなります。ジャーナリストとしての職を得る際、彼は偽造Social Security Numberカードを使用していたのですが、それが偽造と知られたら、即刻解雇される恐れがありました。また、有効なパスポートを持っていないため、国外はもちろんのこと、国内便の飛行機に乗ることさえできませんでした。さらに、不法移民であることが周りに知られたら、移民局に捕まえられ、フィリピンに強制送還されることとなります。そうなったら、キャリアも住む場所も、苦労して築いてきたこれまでの人生の何もかもが、一瞬で失われます。彼はそんな生活に、ほとほと疲れ切っていました。
そこでヴァルガス氏は、自ら不法移民だということを世間に公表し、同じ状況で苦しんでいる不法移民の子供たちのため、法改正への運動を行うことを決意します。このドキュメンタリー映画は、彼の運動と、それを支援する人々の様子を紹介しています。
私は、この映画を観ている最中ずっと腑に落ちないものがありました。彼の運動に賛同し、支持する人がいればいるほど、そのわだかまりは強くなっていきました。
ヴァルガス氏には同情します。彼は、本人の意思で不法移民になったわけではありません。アメリカに移住した後、先述したように、アメリカの高校・大学で人一倍勉学に励み、ジャーナリストになってからは、素晴らしい内容の仕事をこなしてきました。彼は、他のアメリカ人以上にアメリカ社会に貢献してきました。それなのに、正当なビザを持っていないことが発覚すればすぐに強制送還されるという状況に置かれている彼の深い悲しみは、非常に理解できます。
しかし、だからと言って、不法移民の子供たちに(永住権というプロセスを飛ばして)市民権を与えようという意見は、少し飛躍し過ぎではないかと思うのです。
まず、長い間審査待ちをしている正規の永住権申請者に対してフェアではありません。私自身、カナダの永住権を取得するのにとても時間がかかりました。皆、何年も待っているのに、その列を飛ばして先頭に並ばせようというのはどうかと思いました。
また、永住権取得に時間がかかるのには、それなりの理由があります。それは、申請者一人一人のバックグラウンド調査をするためです。今、無差別テロがとても問題になっていますが、移民局が申請者一人一人をしっかり審査しないと、みすみすテロリストに永住権を与えてしまうというミスを犯しかねないと思うのです。
最後に、もしこれが立法されたら、これまで以上に、発展途上国や政治的に安定していない国の親が、自分の子供をアメリカに密入国させようとするのではないか思います。子供が小さいうちに密入国させてしまえば、その子が大人になった時、簡単に市民権が得られるからです。カナダに住んでいると、隣国・アメリカは、他の国々(特に発展途上国)が思っているような“アメリカンドリーム・理想の国”ではないことをひしひしと感じるのですが、それでもなお、自分の子供をアメリカに密入国させようとする親がたくさん出てくると思うのです。
だから、現在、アメリカに滞在している不法移民の子供には、市民権ではなく、永住権取得までの滞在許可(就学ビザ、もしくは就労ビザ)を出すだけに留まり、永住権や市民権は、それぞれちゃんと正規の申請プロセスを経て発給した方がいいのではないかと思いました。
だから映画の中で、ヴァルガス氏の運動や支持者が盛り上がっているシーンが出てくると、彼らの意見や運動に賛同できない自分が、とても保守的で思いやりのない人間のように思えてきて、少し辛かったのでした。
こちらが、このドキュメンタリー映画のトレーラーです。
そしてこちらが、ホセ・アントニオ・ヴァルガス(JOSE ANTONIO VARGAS)氏の「自分は不法移民だ」と公表する記事です。
My Life as an Undocumented Immigrant(英語)
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